2010年08月10日

No.773 『経済的安泰について』

   現代は過去の時代と多くの点で異るが、その最も顕著な差異の一つに、以前は政治権力が例外なく、幼時から快適な収入を確保された人々に帰属していた、という事実がある。 フランスでは大革命まで、そしてイギリスでは今世紀に至るまで、たいていの貴族は自分の所領から快適な収入を引出していた。 彼らがそれを蕩尽する危険はたしかにあったが、その場合でさえ、浪費家が蕩尽した財産を−フランスでは宮廷での取りなしにより、イギリスでは囲いこみ法により、取り戻すことが一般に可能であった。 法律では貧乏の経験も、人生の不安についての知識も、闘争や競争についての理解力も、何一つ有しない人々によって作られてきた。 世間の大多数の人々に比して常に変わらず格段に快適な境遇に生きる人間は、通例自分よりも不幸な人々への同情を感じない。 彼らはある時は明からさまに無感覚であり、ある場合はもっと忌まわしい見解を採用して、人間の幸福は魂のみにかかわり、物質的福祉とは無関係であるゆえに、現世の財物の大部分を独占しても、貧乏人の利益を損なうことにならないなどとさえ、平気で主張する。 例外的特権に依存する安泰は不正であり、それゆえ自分に好都合な社会不正のための口実を見出そうとする人間は、当然の成行として歪んだ道徳感覚を身につける。 これとは対照的に、自由競争での勝者にほかならない現代世界の支配者たちは、冷酷無慈悲さをはじめ、競争での成功を実現するさまざまな行為や資質の価値を過大評価する。 このたがいに対照的な二つの悪徳の防止方法は、一つしかない。 安泰さはそれが社会不正を伴わぬ場合にのみ、美徳となる。 したがって単なる恵まれた少数者ではなく、万人のための安泰がなければならない。 これは実現可能である。 現在の競争社会さえ廃絶されるならば。 
B.Russell 『人生についての断章』 (部分抜粋) 転用者は必ず原典を確認のこと!





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posted by Vigorous at 21:30| 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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