2010年07月08日

No.744 『知的水準の低下』

   学校での辛い勉強は、以前はすべての勉強が本来辛いものだという想定のもとで、当然のことと考えられたが、今日ではこれと反対に、すべての勉強は平易であるべしという感情が世に行われている。 学校の勉強の大部分が下手クソな教授方法のため、不必要に難しくなっている事例はたしかに多い。 しかし、教授方法がどれほど優秀であろうとも、生徒の側の熱心な努力抜きでは習得されないことがらが無限にある。 多くの現代の教育者は、この事実に腹を立てて、平易化の余地のない部分の学業的訓練の価値を軽視しがちである。 むかし学校で教えられたことがらは、たいていそれ自体では無益だったが、正確さを教えるという長所を持っていた。 現代流の学校で教えられることは、たしかにそれ自体知る価値があるものが多いが、しかし通例それは生徒が完全に理解しなくてもよい仕方で教えられる。 その結果、大人たちは漫然たる心的習性を身につけ、邪悪な動機による事実の歪曲を看破する能力を喪失するに至る。 知的職業を選ぶことに心を決めた現代の若者は通例学校では怠けて、専門的訓練の段階に入る段階ではじめて猛勉強する傾向をもつ。 法律学校や医学校で彼が知識習得に懸命になるのは、その知識が彼にとって疑いえぬ経済的効用を持つためにほかならない。 しかし、いわゆる教育の早期の段階では、彼は何とかして無知のままでいようと努力する。 現代の教育改革論者は、勉学は万人の義務であり、したがって在学期間はけっして遊ぶだけの時間でなく成人後の勉学に備えるという真剣な一面を持たねばならぬ、という事実を見落としてきた。 学生生活が遊びだけであるならば、その後の勤労と勉学が苦痛となる。 そして現代世界は、往時よりも格段に複雑になっているゆえに、市民の知的訓練を一層必要とするはずである。 知的水準の低下はそれゆえに二重の不幸であり、疑いもなく世界の悲惨な現状を招いた原因の一つにほかならない。 
B.Russell 『人生についての断章』 (部分抜粋) 転用者は必ず原典を確認のこと!





検索用kwd:バートランド・ラッセル
posted by Vigorous at 22:50| 教育、心理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
カテゴリ



注意
◆ このブログの内容は引用が中心ですが、知識の切り売りを目的としたものではなく、投稿者の備忘録として作成されています。皆さんは、ここに書かれた引用のみで満足することなく、なるべく原典に触れる習慣をつけてください。
◆ このブログでは、投稿者が独自に調査したデータや、知人から伝え聞いたエピソードなどが掲載されることがありますが、そのまま受け売りにせず、皆さん自身が事実関係を調査し、記事の真偽を見極めることができるように努力してください。
◆ ここは金言や名言を羅列することを目的にしたサイトではありません。どんな金言や名言も、羅列したとたんにただの展示物になってしまいます。長い引用も短い引用も、じっくり噛み締めて味わい、あなたの財産にしてください。アーカイブも一度にすべて読むのではなく、毎日少しずつ読むようにすると良いでしょう。



QRコード

リンク集
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。