2010年05月13日

No.696 『政府は戦争を欲しているか?』

   およそ文明諸国内で、平明な事実を解する能力を有するすべての人は、来るべき世界大戦が疑いもなく文明の終焉を意味するという見通しで一致している。 それは単に戦争の技術、特に攻撃技術の完成にもとづく事実に他ならない。 航空機と毒ガスは、防衛に比して攻撃を一段と決定的ならしめ、その結果、銃後の文民人口への攻撃を一層容易ならしめた。 もしもたとえばイギリスとフランス間に戦争が始まると、勃発数時間にしてロンドンとパリの両都市の殆ど全部の住民が死ぬ可能性がある。 数日のうちに、すべての工業の中心地は壊滅し、たいていの鉄道路線は寸断されよう。 恐怖心に駆られた民衆は争って食糧を買い漁り、首尾よくそれを入手した連中は、田舎に逃れて自分に近よる他人を攻撃するだろう。 おそらく一週間以内に両国の人口は半減し、彼らの文化の媒体である諸制度は永久に破壊されるだろう。 これらの事実は皆よく知られているのに、信じ難いように見えるが、諸国の政府は戦争抑止のあらゆる真剣な企図に対して、根強い反対態度を示している。 軍縮会議は長い審議の果てに、単にある種の無益な合意-戦争が勃発すればその日のうちに破棄されるに違いない合意-の更新を決議しただけで終わった。 これら多くの事実から引き出される結論は、世界各国の政府は戦争を積極的に欲しないけれども、依然として1914年以前と同様、戦争抑止に役立つ一切の方策を防御しようと心に決めているらしい事実である。 それゆえ今こそ普通の市民は、彼ら自身や子孫を無益な恐るべき死から救うために必要な良識を、まだそれが間に合う今のうちに身につけることが望ましい。 そのための第一の階梯は、全世界的規模の強制的かつ完全な軍備撤廃であり、第二の階梯は国際的政府の樹立である。 陸海軍はけっして安全に役立たない。 現代世界における唯一の安全保障は、戦争の手段を持たぬことである。 アインシュタインのような人が、戦争に関する自明な真理を世間に向かって説いているのに、世間は耳を傾けない。 彼の言うことが難しくて分からないかぎりでは、彼は賢明な人だと考えられるが、彼が万人の理解しうる事柄を述べると彼の知恵はもう駄目になったと考えられる。 この種の愚かな反応の音頭取りをするのが、各国の政府に他ならない。 政治家は政権にしがみつていたいために、自分の国を破滅に導いても構わないと考えるらしい。 これほど邪悪な根性はざらに考えられるものではない。 
B.Russell 『人生についての断章』 (部分抜粋) 転用者は必ず原典を確認のこと!





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posted by Vigorous at 21:42| 指導者、政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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