2010年05月10日

No.694 『言語の信憑構造 と 「作家の死」 』

   ジャック・デリダの言語論のキーコンセプトは、 「作家の死」 です。 ある人が何かを伝えようとして(意味A)、それを言葉にする(言葉A)。 これを他者が聞き 「意味A」 を受け取る。 「作家の死」 とは 「話者の不在」 ということです。 実は、 「意味A」 と 「言葉A」 のあいだには乗り越えがたい壁があるというのです。 書き言葉においては、話者は必ず存在するという保証がありません。 われわれはたとえばプラトンのテクストを読みます。 しかしプラトンは死んでいる。 プラトンのある言葉がしかじかのことを意味していると絶対に保障するものは何もない。 それはいわば本の上に現れている痕跡としての書字にすぎない。 
  現象学では 「リンゴがあるから、リンゴの像が見えている」 というふつうの考えをいったん停止します。 そして、あえて 「リンゴの像がある仕方で見えているから、そこにリンゴが存在するという確信が成立する」 と考えます。 これが現象学的還元の基本ですが、これを言語の問題にあてはめてみます。 すると、言語的な意味の 「信憑構造」 が明らかになります。 言いかえれば、われわれが他人の言葉やテクストを聞いたり読んだりしたとき、何かを理解したり受け取ったと考えますが、これを確信成立の構造と見るとその本質構造が明らかになるのです。 
  たとえば。 発話者Aが 「空は青い」 と言ったとして、その言葉Aを介して、受話者Bは彼の言わんとしたこと 「空は青い (意味A)」 を受け取る。 ここには何の問題もなさそうに見えます。 しかしことはそう簡単ではありません。 たとえばいま友人と二人で歩いていて、突然彼がポツリと 「空は青い」 と言ったとします。 すると、一緒にいる私は、すぐにはその意味がよくわからないでしょう。 このとき、 「・・・・と昔、理科の先生がよく言っていたな」 と彼が続けて言えば、私はああそうか、と納得します。 あるいはまた、 「・・・・でも私の心は暗い」 と言えばやはり、意味が分かった、と思います。 この場合聞き手は、友人の 「空は青い (言語A) 」 を聞いたとき、これを介して暗黙のうちにその 「言わんとすること (意味A)」 を目がけている。 そしてこの 「志向 (=彼の意は何であるか)」 が明瞭な確信像を結ばなければ、聞き手は彼の言うことを分からないと感じる。 しかし 「・・・・・でも私の心は暗い」 という次の言葉は、彼の 「意」 についての一つの明確な 「確信」 を与えます。 このとき私はその言葉の 「意味」 が分かったと感じるわけです。 もちろんそれはあくまで 「確信の成立」 であって、実は 「誤解」 でありうる。 しかしその事実性とはかかわりなく、聞き手のうちに確信が成立する限り、聞き手は言葉の意味を理解したと感じるのです。 
  聞き手が、発語された 「言語A」 を介して、つねに発語者の 「言わんとすること」 を目がけ (志向し)、その確信が成立することで言語行為はそのつど成立する。 これが言語の 「信憑構造」 の本質的な図式です。 
  デリダは、 「作家の死」 の概念によって、表現作品が単なる 「表意的意味」 を表現するのではないこと、表現と受け手の間に解釈の本質的な多義性、多様性が成立することをよく示唆しました。 
  いま、言語から発語者-受語者の暗黙の関係をそっくり抜き取るとどうなるでしょうか。 わたしはそれを 「一般的言語表象」 と呼んで、 「現実言語」 と区別しました。 すなわち、そこでは言語が、 「一般的な意味 (←→関係投機による意味)」 しか表示しない言語となるのです。 発語者-受語者の関係が生きている言語が、 「現実言語」 ですが、 「現実言語」 と 「一般言語表象」 とを区別しないことによってさまざまな 「言語の謎」 が現れます。 「すべてのクレタ人は嘘つきである。 」 これも現実言語ではどんなパラドクスも起こらないが、それを 「一般言語表象」 として抜き取って示すと、この文章の 「一般意味」 だけが表示され、そこで論理上の矛盾が現れます。 
竹田青嗣 『現象学は《思考の原理》である』





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posted by Vigorous at 22:27| 哲学・宗教 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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