2009年11月28日

No.575 『振動する相補性』

   あるひとつのジグソーピースのかたちは、必然的に隣接するピースのかたちを規定する。 ジグソーピースのように、相補的な相互作用を決定する領域は、ひとつのタンパク質に複数存在しうる。 だからひとつのタンパク質に複数のタンパク質が接近し、結合する。 さらにその相補性は、ジグソーパズルが二次元上に限られていたのに対して、三次元的に広がる。 生命を構成するタンパク質は作られる際から壊される。 それは生命がその秩序を維持するための唯一の方法であった。 生命はその内部に張り巡らされた 「かたちの相補性」 によって支えられており、その相補性によって、絶え間のない流れの中で動的な平衡状態を保ちえているのである。 
  ジグソーパズルのピースは次々と捨てられる。 それはパズルのあらゆる場所で起こるけれど、それはパズル全体から見ればごく微細な一部に過ぎない。 だから全体の絵柄が大きく変化することはない。 そして、新しいピースもまた次々と作り出される。 ピースはランダムな熱運動を繰り返し、欠落したピースの穴と自らの相性を試しているうちに、納まるべき場所に納まる。 こうして不断の分解と合成に晒されながらも、パズルは全体として平衡を保つことが可能となる。 
  福島県立医科大学の和田郁夫教授は、特別な顕微鏡と蛍光標識を使って、一分子のタンパク質が一分子のパートナータンパク質と相補的な結合を行う様子を観察してみた。 すると、きわめて不思議なことに、蛍光はしばしば規則的な明滅を繰り返していたのである。 これは一体何を意味しているのだろうか。 焦点深度内に固定されているタンパク質に対して、もうひとつの蛍光標識タンパク質は、くっついたり離れたりを定期的に繰り返しているのだ。 離れると蛍光は検出震度を外れる。 近づくと蛍光が検出される。 だから明滅しているように見える。 相補性はしばしばこのようにきわめて微弱で、、ランダムな熱運動との間に、危ういバランスをとっているに過ぎない。 パズルのピースはぴったりとは合うものの、がっしりとは結合せず、かすかな口づけを繰り返す。 相補性は 「振動」 しているのだ。 
  動的平衡は、異常タンパク質を取り除き、新しい部品に素早く入れ替えることを保証する。 結果として生体は、その内部に溜まりうる潜在的な廃物を系の外に捨てることができる。 
福岡伸一 『生物と無生物のあいだ』





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posted by Vigorous at 19:04| 自然科学、環境 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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