2009年10月17日

No.541 『生命の動的平衡』

   脳細胞は発生時に形成されると一生の間、わずかな例外を除き、分裂も増殖もしないとされている。 つまりここにはDNAの自己複製の機会はない。 ならば脳細胞のDNAはまったく不変で、ヒトが生まれてから死ぬまで、同一の原子で構成されたまま不動なのだろうか。 そうではない。 脳細胞のDNAを構成する原子は、むしろ増殖する細胞のDNAよりも高い頻度で、常に部分的な分解と修復がなされている。 シェーンハイマーだけがその秘密を感得することができた。 
  秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない。 
  シェーンハイマーは1941年、自ら命を絶った。 このときまだDNAの二重らせん構造は明かされていなかった。 しかし彼は、生命を構成する分子はそれがたとえいかなるものであっても 「流れ」 の掟から免れることができないとわかっていたはずである。 
  エントロピー増大の法則に抗う唯一の方法は、システムの耐久性と構造を強化することではなく、むしろ仕組み自体を 「流れ」 の中におくことなのである。 つまり流れこそが、生物の内部に必然的に発生するエントロピーを排出する機能を担っていることになるのだ。 
福岡伸一 『生物と無生物のあいだ』





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posted by Vigorous at 22:29| 自然科学、環境 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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