2009年10月13日

No.538 『カントとヘーゲル』

   カントでは人間の 「自由」 の本質は、 「よきことへ向かおうとする意志」 だった。 だがヘーゲルは言う。 それは 「自由」 というものの極端な理想化だ。 もっと実情に即して考えたほうがいい。 
  ヘーゲルに言わせれば、善に向かう意志は、人間の 「自由」 の一側面にすぎず、とうていその 「本質」 とはいえない。 なるほど人間は、条件がよければ 「善きこと」 に向かおうとする。 それは本当だ。 しかしだからといって、人間の本質を直接 「善きこと」 への自由意志だと考えるのは、素朴すぎる。 人間の自由たろうとする精神は、必ずまず 「自己意識の自由」 つまり 「自己価値」 への欲望という形をとる。 だから青年の理想は、 「ほんとうの自分」 「立派な自分」 をつかもうとする無意識の欲望に押されて過激なものとなり、しばしば利他や理想への献身だけを 「善」 とし、利己や自己配慮を 「悪」 と考える。 「善」 の内実が過剰に理想化され、絶対化される傾向が生じるのはそういう理由による。 ヘーゲルの考えでは、 「善」 とは、最高の理性状態をめがけようとする心性をもつことではなく、むしろ、常に各人がその 「自由」 を十全に確保でき、そこで人間の人間的本質を開花させうるような社会的関係を作りあげてゆくこと、でなくてはならない。 
竹田青嗣 『哲学ってなんだ』





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posted by Vigorous at 20:47| 哲学・宗教 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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