2009年09月27日

No.526 『流れの中にある生命』

   ひとつのタンパク質を合成するためには、いちいち一からアミノ酸をつなぎ合わせなければならない。 つまり、重窒素を含むアミノ酸が外界からネズミの体内に取り込まれて、それがタンパク質の中に組み込まれるということは、もともと存在していたタンパク質の一部に重窒素アミノ酸が挿入される、というふうにはならない。 そうではなく、重窒素アミノ酸を与えると瞬く間にそれを含むタンパク質がネズミのあらゆる組織に現れるということは、恐ろしく速い速度で、多数のアミノ酸が一から紡ぎ合わされて新たにタンパク質が組み上げられているということでなる。 さらに重要なことがある。 ネズミの体重が増加していないということは、新たに作り出されたタンパク質と同じ量のタンパク質が恐ろしい速度で、バラバラのアミノ酸に分解され、そして体外に捨て去られているということを意味する。 
  つまり、ネズミを構成していた身体のタンパク質は、たった3日間のうちに、食事由来のアミノ酸の約半数によってがらりと置き換えられたということである。 
  重窒素を含んでいるのはロイシンだけではなかったグリシンにもチロシンにもグルタミン酸などにも重窒素が含まれていた。 体内に取り込まれたアミノ酸は、さらに細かく分断されて、あらためて再配分され、各アミノ酸を構成していたのだ。 それがいちいちタンパク質に組み上げられる。 つまり、絶え間なく分解されて入れ替わっているのはアミノ酸よりもさらに下位の分子レベルということになる。 これはまったく驚くべきものだった。 

  つまりここにあるのは、 「流れ」 そのものでしかない。 

  入れ替わっているのはタンパク質だけではない。 貯蔵物として考えられていた体脂肪でさえもダイナミックな 「流れ」 の中にあった。 それまでは、脂肪組織は余分のエネルギーを貯蔵する倉庫であると見なされていた。 大量の仕入れがあったときはそこに蓄え、不足すれば搬出する、と。 同位体実験の結果はまったく違っていた。 貯蔵庫の外で需要と供給のバランスがとれているときでも、内部の在庫品は運び出され、一方で新しい品物を運び入れる。 脂肪組織は驚くべき速さで、その中身を入れ替えながら、見かけ上、ためているふうを装っているのだ。 すべての原子は生命体の中を流れ、通り抜けているのである。 
  私たちが断食を行った場合、外部からの 「入り」 が少なくなるものの内部からの 「出」 は継続される。 身体はできるだけその損失を食い止めようとするが 「流れ」 の掟に背くことはできない。 私たちの体タンパク質は徐々に失われていってしまう。 したがって飢餓による生命の危険は、エネルギー不足のファクターよりも、タンパク質欠乏によるファクターの方が大きいのである。 エネルギーは体脂肪としてし蓄積でき、ある程度の飢餓に備えうるが、タンパク質はためることができない。 
福岡伸一 『生物と無生物のあいだ』





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posted by Vigorous at 15:25| 自然科学、環境 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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