2009年09月11日

No.513 『耐震偽装問題』

   耐震偽装問題の起こった背景には、建築基準法というものが何のための法律で、それを社会で活用していくために、どういう方向で法律を運用していったらいいのかという基本的な視点の欠如がありました。 
  この法律は、 「建築物の敷地、構造、設備および用途に関する最低の基準」 を定めるものであり、建築確認制度というのは、建築士が設計行っていることを前提に、行政においても事前に最低限の設計図上のチェックを行うという趣旨で設けられた制度でした。 この制度ができた終戦直後、もともと予定されていたのは、木造の一戸建てのような単純な構造の建築物でした。 しかしその後、経済の発展に伴って、建築技術も飛躍的に進歩し、建築物も高層・大規模化し、複雑で多様な構造のビルが建築されるようになったため、建築士の設計と建設主事の確認によって安全性を確保するというこの制度は、大規模建築については形骸化してしまいました。 それにもかかわらず、一般の人は、建築確認が、現在のような高層化・複雑化した建築物についても、安全性を確保する役割を果たしているように誤解されてきました。 建築基準法による建築確認という制度が果たしている役割について、一般人の認識と実態との間に大きなギャップが生じていたのです。 (中略) 
  つまり日本の建築物の安全性は、従来から、建築基準法という 「法令」 や建築確認という 「制度」 ではなく、会社の信用と技術者倫理によって支えられてきたのです。 ところが、1981年の建築基準法の改正で新たな耐震基準が導入された際、その基準は既設建築物には適用されず、それ以降のものだけに適用されたために、周囲に耐震性の低い建物がゴロゴロしているのに、新たに建てる建物だけは高い耐震性を要求されることにななりました。 基準が充たされていない建築物が実際には回りに多数あるということであれば、絶対的な基準という認識は希薄になってしまいます。 
  耐震偽装問題が、社会に大きな影響を及ぼす騒ぎに発展する原因となったのは、強度が偽装された建物の使用禁止と取り壊しを命じた国土交通省側が発表した 「震度5強の地震で倒壊の恐れがある」 という言葉でした。 震度5強というと、地震国日本ではかなり頻繁に起きる地震です。 
  「耐震強度偽装」 という違法行為がマスコミにセンセーショナルに取り上げられ、多くの人は、強度を偽装された建物だけが、ちょっとした地震で崩れ落ちてしまうように誤解しました。 
  実際は、1981年以前に建築された建物には、問題になった地震強度が偽装された建物より耐震性の低いものも多数あり、もし、耐震性が低い建物の存在が問題だというのであれば、日本中の多数の建物の使用を禁止しなければならなかったはずですが、社会の関心は、偽装行為を叩き、偽装の再発を防止することばかりに向けられてしまったのです。 
郷原信郎 『思考停止社会』





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posted by Vigorous at 23:13| 社会学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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