2009年09月10日

No.512 『重窒素の行方』

   たんぱく質を構成するアミノ酸にはすべて窒素が含まれている。 ひとたび食べてしまえばふつう、そのアミノ酸は体内のアミノ酸にまぎれて行方を追うことは不可能となる。 しかし、重窒素をアミノ酸の窒素原子として挿入すれば、そのアミノ酸は識別できる。 他のアミノ酸と区別して、重さの違いから重窒素を含むアミノ酸をずっと追跡できることになる。 
  普通の餌で育てられたネズミにある一定の短い時間だけ、重窒素で標識されたロイシンというアミノ酸を含む餌が与えられた。 このあとネズミは殺され、すべての臓器と組織について、重窒素の行方が調べられた。 他方、ネズミの排泄物もすべて回収され、追跡子の収支が計算された。 
  ここで使用されたネズミは成熟した大人のネズミだった。 これにはわけがある。 もし、成長の途上にある若いネズミならば、摂取したアミノ酸は当然、身体の一部に組み込まれるだろう。 しかし成熟したネズミならばもうそれ以上大きくなる必要はない。 事実、成熟ネズミの体重はほとんど変化がない。 ネズミは必要なだけ餌を食べ、その餌は生命維持のためにエネルギー源となって燃やされる。 だから摂取した重窒素アミノ酸もすぐに燃やされてしまうだろう。 当初、こうシェーンハイマーは予想した。 しかし実験結果は彼の予想を鮮やかに裏切っていた。 
  尿中に排泄されたのは投与量の27.4%。 糞中に排泄されたのはわずかに2.2%、ほとんどのアミノ酸はネズミの体内のどこかに留まったことになる。 では、残りの重窒素は一体どこへ行ったのか。 答えはタンパク質だった。 重窒素のうちなんと56.5%が、身体を構成するタンパク質の中に取り込まれていた。 しかも、その取り込み場所を探ると、身体のありとあらゆる部位に分散されていたのである。 特に、取り込み率が高いのは腸壁、肝臓、脾臓、腎臓などの臓器、血液中のタンパク質 (血清) であった。 当時最も消耗しやすいと考えられていた筋肉タンパク質への重窒素取り込み率ははるかに低いことがわかった。 実験期間中、ネズミの体重は変化していない。 
福岡伸一 『生物と無生物のあいだ』





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posted by Vigorous at 20:51| 自然科学、環境 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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