人 (あるいは共同体) は誰であれ、自分の生命と財産の維持のために、実力 (暴力) を使って自分の身を守る当然の権利を持っている (自然権) 。 そこで、人間社会は、もし強力な統治権力がなければ、相互不信のために、不可避的に普遍的な闘争状態に陥らざるをえない (自然状態) 。 この普遍闘争状態を制御する 「原理」 はたった一つで、全員の自然権を誰か相応しい人物に譲り、強力な統治権力を作りあげることだ。 そのことではじめて、 「私闘」 が禁止され、統治と秩序の状態が現れる。 この原理をホッブズは 「自然法」 と名付けた。 (中略)
だが、現実には、相互不信や疑心暗鬼があるので、 「はじめに」 自ら進んで武力を捨て、王権に自分の権利を委ねようとするものはいない。 そんなことをすれば、たちまち近隣の勢力に打ち倒されるかもしれないからだ。 この意味では、ホッブズの説は、ただ原理論としてだけ正しく、それをいかに実現するかについてのプランがない。 そこにいろいろつけ込まれて批判される余地がある。
竹田青嗣 『人間の未来』
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