2009年08月14日

No.0486 『完全義務』

   強調しておきたいことは、絶対的貧困の水準にある者への援助は、完全義務であるということである。 
  絶対的貧困とは、 「人間の品位のいかなる理に適った定義にも満たないほどに、栄養不足、非識字、疾病、不潔な環境、高い幼児死亡率、短い平均寿命によって特徴づけられる生活条件」 (ロバート・マクナマラ) である。 要するに、 「これはもはや人間ではない!」 と言われるような生活条件が、絶対的貧困だ。 
  問題は、完全義務と不完全義務の区別である。 この概念は、カントに由来する。 
  貧困国に対する贈与が望ましいか、と問えば、ほとんどの人は望ましいと答えるだろう。 だが、たいてい、その 「望ましさ」 は不完全義務の水準で捉えられている。 つまり、それをやれば褒められるかもしれないが、しなかったからといって、非難されることもないような行為の一種と見なされているのだ。 だが、ここで述べたいことは、絶対的貧困の下にある者への援助は、もっと強い義務、つまり完全義務だということだ。 
  たとえば、次のような状況を想像してみよう。 今あなたは、上司の家で開かれるパーティへと急いでいる。 と、その途上にある池で、一人の子供がおぼれている。 その池は、あなたにとっては浅い。 しかし、幼い子供にとっては深い。 あなたが助けなくては、子どもは溺死してしまうだろう。 
  子供を助けたときに、あなたに数々の不都合が生ずることは間違いない。 まず、パーティに遅刻するだろう、洋服も汚れるだろう。 このとき、なにしろさまざまな不都合があるのだから、あなたは子供を助けなくてもよい、ということになるだろうか? 絶対、そうはなるまい。 断然、子供を救出すべきである。 このような状況で子供を助けることは、完全義務ではないか。 
大澤真幸 『逆接の民主主義』





検索用kwd:
posted by Vigorous at 19:55| 指導者、政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
カテゴリ



注意
◆ このブログの内容は引用が中心ですが、知識の切り売りを目的としたものではなく、投稿者の備忘録として作成されています。皆さんは、ここに書かれた引用のみで満足することなく、なるべく原典に触れる習慣をつけてください。
◆ このブログでは、投稿者が独自に調査したデータや、知人から伝え聞いたエピソードなどが掲載されることがありますが、そのまま受け売りにせず、皆さん自身が事実関係を調査し、記事の真偽を見極めることができるように努力してください。
◆ ここは金言や名言を羅列することを目的にしたサイトではありません。どんな金言や名言も、羅列したとたんにただの展示物になってしまいます。長い引用も短い引用も、じっくり噛み締めて味わい、あなたの財産にしてください。アーカイブも一度にすべて読むのではなく、毎日少しずつ読むようにすると良いでしょう。



QRコード

リンク集
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。