2009年07月26日

No.0468 『伊藤ハム』

   2008年10月25日の夜、伊藤ハムは記者会見を行って、工場で使用している地下水からシアン化合物が検出されたことと、ソーセージ、ピザなど13品目267万個を自主回収することを公表しました。 千葉県柏市にある東京工場での9月18日の定期検査で、使用する地下水から水道法の基準値(0.01mg/リットル)を上回る0.02mgのシアン化合物を検出。 10月15日の再検査の結果でも基準値を上回ったので、23日に地元の保健所に相談に行ったところ、ただちに公表するよう指示され、自主公表、自主回収に至ったのです。 しかし、実質的に見ると、この問題は食の安全の問題とはまったくいえないのです。 
  きわめて微量のシアン化合物が検出されたのは飲用水ではありません。 それを、食品製造に利用しても、個々の食品に含まれるシアン化合物は、ほとんど数字に表せないほど微量です。 実際に自主回収の対象となった商品からはまったく検出されませんでした。 しかも、その地下水の含有量も、日本の水質基準値は超えますが、世界保健機関が飲料水質ガイドラインで定める基準の三分の一以下でした。 この地下水で製造したソーセージを1日390袋一生食べ続けても健康上まったく問題ないレベルなのです。 
  このような、まったく健康への影響がないレベルの問題で、なぜ、これ程までに伊藤ハムが批判・非難を受けたのか。 それは要するに、9月18日にシアン化合物が検出された段階で、その事実をただちに公表しなかったことが、 「隠蔽」 にあたるとされたからです。 しかし、9月18日に微量のシアン化合物が検出された段階で、その事実をただちに公表しろというのはあまりに酷です。 このとき検出したのは、地下水を工場内で処理した処理水でした。 その中から有害物質が微量検出されたのであれば、まず、処理行程に原因があるのではないかと疑うのが通常です。 伊藤ハムの工場関係者もまず処理工程を検査しましたが、問題は発見されませんでした。 そして10月に入って、今度は地下水の原水の検査を行ったところ、そこからも微量のシアン化合物が検出されたので、保健所に報告したのです。 伊藤ハム側が保健所に通報した趣旨も、 「地下水の原水から微量のシアン化合物が検出されたということは、周辺に汚染源があって、もっと高濃度のシアン含有水が飲用に使われている恐れがある」 というもので、公益観点からだったと思われます。 ところが保健所は、その極めて微量のシアン化合物を含有する地下水を使用して食品を製造したことのほうを問題にしたのです。 
  土曜日の午後8時という時間の会見は、記者たちを 「緊急を要する重大な事態発生」 というイメージを持って会見場に向かわせることになります。 「こんな時間にわざわざ呼び出したんだから、会見の趣旨をはっきりさせろ、謝罪するのか、しないのか」 と促されて、会社幹部が深々と頭を下げる写真を撮られ、それに見合うだけの謝罪の弁を述べるよう徹底的に追及される、ということで、会社側の当初の意図とはちがって、謝罪一色の会見になってしまいます。 
  こうして伊藤ハムは、完全にシアン化合物検出の事実を 「隠蔽」 した企業、という烙印を押され、各紙の社説などでも厳しく批判され、東京工場の閉鎖という事態にまで追い込まれたのです。 
郷原信郎 『思考停止社会』





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posted by Vigorous at 15:34| 社会学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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