2009年07月14日

No.0456 『抽出された核酸 (DNA) 』

   肺炎双球菌は、肺炎の病原体だった。 これは単細胞生物でありウィルスではない。 通常の光学顕微鏡でも観察することができる。 この菌にはいくつかのタイプがあった。 大別すれば、強い病原性を持つS形と、病原性を持たないR型である。 この型は遺伝する。 
  グリフィスは奇妙なことに気がついていた。 病原性のあるS形を加熱によって殺し、実験動物に注射しても肺炎は起こらない。 当然である。 しかし、死んでいるS型と生きているR型を混ぜて実験動物に注射すると、なんと肺炎が起こり、動物の体内からは、生きているS形菌が発見されたのだ。 
  エイブリーは、この不思議な現象の原因を突き止めようと考えたのである。 S型菌をすりつぶして殺し、菌体内の化学物質を取り出す。 それをR型菌に混ぜるとR型菌はS型菌に変化する。 エイブリーはS型菌からさまざまな物質を取り出し、どれがR型菌をS型菌に変化させるか、しらみつぶしに検討していった。 その結果、残った候補はS型菌体内に含まれていた核酸、すなわちDNAであった。 
  核酸は高分子ではあるけれど、たった四つの要素だけからなっているある意味で単純な物質だった。 だからそこに複雑な情報が含まれているなどとは誰も考えていなかった。 今日の私たちは、たとえ0と1という2つの数字からだけでも、複雑な情報が記憶でき、むしろそのほうがコンピュータを高速で動かすには好都合だということを知っている。 しかし、当時、情報のコード (暗号) 化についてそのように考えられる研究者はすくなくとも生物学者にはいなかった。 エイブリーも自分の実験結果に半信半疑だった。 何度も実験を繰り返し、いろいろな角度から再検討を行った。 しかし、結果はただひとつのことを示していた。 
  遺伝子の本体はDNAである。 
福岡伸一 『生物と無生物のあいだ』





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posted by Vigorous at 22:00| 自然科学、環境 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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