2009年05月29日

No.0416 『生物のダイナミズム』

   分子生物学的な生命観に立つと、生命体とはミクロなパーツからなる精巧なプラモデル、すなわち分子機構に過ぎないと言える。 デカルトが考えた機械的生命観の究極的な姿である。 生命体が分子機構であるならば、それを巧みに操作することによって生命体を作り変え、 「改良」 することも可能だろう。 たとえば分子機構の部品を一つだけ働かないようにして、そのとき生命体にどのような異常が起きるかを観察すれば、部品の役割をいい当てることができるだろう。 このような考え方に立って、遺伝子改変動物が作成されることになった。 「ノックアウト」 マウスである。 私は遺伝子操作技術を駆使して、部品が欠損したマウスを作った。 一つの部品が叩き壊されているマウスである。 このマウスを育ててどのような変化が起こっているのかを調べれば、部品の役割が判明する。 
  長い時間たくさんの研究費を投入して、私たちはこのようなマウスの受精卵を作り出した。 それを仮母の子宮に入れて子供が誕生するのを待った。 母マウスは無事出産した。 子マウスはすくすくと成長した。 そしておとなのマウスになった。 何も起こらなかった。 栄養失調にも糖尿病にもなっていない。 じつは、私たちと同じような期待をこめて全世界で、様々な部品のノックアウトマウス作成が試みられ、そして私たちと同じようにな困惑あるいは落胆に見舞われるケースがは少なくない。 
  私は落胆した。 もちろん今でも半ば落胆している。 しかしもう半分の気持ちでは、実は、ここに生命の本質があるのではないかと考えるようになってきたのである。 生命というあり方には、パーツが張り合わされて作られるプラモデルのようなアナロジーでは説明不能な重要な特性が存在している。 ここには何か別のダイナミズムが存在している。 私たちがこの世界を見て、そこに生物と無生物とを識別できるのは、そのダイナミズムを感得しているからではないだろうか。 
福岡伸一 『生物と無生物のあいだ』





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posted by Vigorous at 23:36| 自然科学、環境 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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