2009年02月21日

No.0291 『黙想の衰微』

   今の世の中には、時間のゆとりがほとんどない。 それは昔よりも人々が忙しく働くからではなく、楽しみをもつこと自体が、仕事同様に努力を要することがらになったためである。 その結果人間は、知恵が徐々に結晶する過程とも言える余裕ある思考に時間を向けないので、人間は愚かになった。 例えば戦争防止のような問題は、戦争の影が身近に迫っているのが誰にもよく分かるのに、人間があれこれ考えなくても、世の成りゆきで何とかなると呑気にかまえて、真剣に問題と取り組もうとしない。 だが、成り行き任せで、手をこまねいていてはめったに事態は好転しない。 逆説的ではあるが、時間を節約する発明や工夫が、このような結果を生みだしたとも言える。 例えば交通機関を見てみよう。 より速い旅ができるようになればなるほど、人間はそれだけ余分な時間を旅行に費やす。 今や人間は、汽車を利用して自宅から会社に行くのに一時間もの時間をかける電話の場合を考えてみよう。 私はかつて長距離電話をかけてきた耳の遠いある老紳士と通話した。 私は電話に出て、「バートランド・ラッセルです」というと、彼は、「何ですって」と答えたので、私は同じことを声を張り上げて繰り返したが、彼はあいからず、「何ですって」と言った。 そこで私はとうとう破れ鐘のような声を出して名を名乗ったところ、「なぁんだ。 あなたがラッセルさんだということは分かっていますよ」という言葉が返ってきた。 通話時間はここまでであった。 電話とは実に便利なものである。 このようなことが積もり積もって、日々の生活が忙しくなり、仕事をしたことについてのまったく架空の印象が残る。 もし、われわれが毎日30分間静かに黙想にふけるならば、われわれは個人的、国家的、国際的な諸事万端を今よりももっと正常にこなしていけると、私は確信する。 
B.Russell 『人生についての断章』 (部分抜粋) 転用者は必ず原典を確認のこと!





検索用kwd:バートランド・ラッセル
posted by Vigorous at 18:06 | TrackBack(0) | 社会学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック
カテゴリ



注意
◆ このブログの内容は引用が中心ですが、知識の切り売りを目的としたものではなく、投稿者の備忘録として作成されています。皆さんは、ここに書かれた引用のみで満足することなく、なるべく原典に触れる習慣をつけてください。
◆ このブログでは、投稿者が独自に調査したデータや、知人から伝え聞いたエピソードなどが掲載されることがありますが、そのまま受け売りにせず、皆さん自身が事実関係を調査し、記事の真偽を見極めることができるように努力してください。
◆ ここは金言や名言を羅列することを目的にしたサイトではありません。どんな金言や名言も、羅列したとたんにただの展示物になってしまいます。長い引用も短い引用も、じっくり噛み締めて味わい、あなたの財産にしてください。アーカイブも一度にすべて読むのではなく、毎日少しずつ読むようにすると良いでしょう。



QRコード

リンク集
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。