「ロシヤ語や中国語やポルトガル語はだめなんですか?」
現場の精神科医兼脳外科医としては外国語を習う時間などわずかしかないのだと彼は言った。 彼が読める古典はラテン語とギリシア語だけである。 古代東洋語などはまったく解さない
その辺で話を切り上げたい様子がありあり見えたが、彼を行かせるわけにはいかなかった。 彼がどこまで知っているか突き止めなければならない。
私は突き止めた。
物理学・・・場の量子論の域を出ない。 地質学・・・地形学も層位学も岩石学さえも知らない。 ミクロ経済理論もマクロ経済理論も知らない。 変分法の初歩以上の数学についてはほとんどだめ。 バナッハの代数もリーマンの多様体についてもまったく無知。 これがこの週末に私を待ちかまえていた意外な新事実の先触れであった。
パーティの場にはいたたまれなかった。 歩きながら考えて見ようと思い会場をぬけだした。 詐欺師だ・・・・・二人とも。 彼らは天才のふりをしていたのだ。 手探りで仕事をしている凡人にすぎないくせに、闇に光をもたらすことができるようなふりをしていたのだ。 なぜみんなが嘘をつくのだ? 私が知っている人間はすべて、見かけだおしだった。
ダニエル・キイス 『アルジャーノンに花束を』 (小尾芙佐訳)
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