2008年12月03日

No.0130 『ステレオタイプD』

   未訓練者の目で身の回りを観察するとき、我々がそこから拾い出すのは、自分が認識できる記号ばかりである。 そうした記号は概念を表徴する記号であり、こうした概念をわれわれは自分の内に蓄えているイメージ群で満たす。 我々は、「この人間」、「あの日没」 というように個々別々のものを見ることをしない。 これが人間というものである、これが日没というものであると認めてしまった上で、そうした主題について我々の頭にすでにいっぱい入っているものをもっぱら見ることになる。  (中略) 現代生活は多忙を極め、多岐にわたる。 たとえば雇用者と被雇用者、あるいは公務員と有権者のように、相互に密接な交渉がたびたびあるはずの人たちでさえ、何よりまず物理的な距離によって隔てられている。 親しく知り合う時間もなければ機会もない。 その代わり、我々は自分のよく知っている類型を指し示す一つの特徴を人々の中に見つけ出し、頭に入れて持ち歩いているさまざまのステレオタイプによって、その人物像の残りを埋めるのである。 彼は扇動者である、彼は金権家だ、彼は外国人だ、彼は南欧人だ、彼はバック・ベイの出身だ、彼はハーバード大学の出身だ、彼はまともな人間だ、彼はグリニッチ・ヴィレッジに住んでいる。 それだけ知ればその人についてはすべて分かったことになってしまう。
  外部からのあらゆる影響力のうち、もっとも微妙で、しかももっとも広範に浸透してくる力は、ステレオタイプのレパートリーを作り、それを維持するような力である。 我々は自分で見るより前に外界について教えられる。 経験する前にほとんどの物事を想像する。 そして、教育によってはっきりと自覚させられないかぎり、こうしてできた先入観が知覚の全過程を深く支配する。 そうした先入観は、対象となる物事を馴染みのものとか、知らないものとかいうように分類する。 その差が誇張されるので、ちょっとでも知っていれば非常に馴染み深いものと考えられ、どこか知らないところがあればまったく異なるものと見られることになる。 そうした先入観はちょっとした記号によって呼びさまされる。 記号といっても、本当にそのものを示すものから、ぼんやりと似ているだけというものまで様々である。 いったん呼びさまされた先入観は、新たに内に捉えた映像を古いイメージで満たし、記憶によみがえってきたものをその世界に投影する。 もし外界に実際以上似通った例がないならば、物を見るために先入観を受け入れるという人間の習慣には経済性どころではなく誤りだけが生じるであろう。 しかし正確といってよいほどの類型がいろいろと存在し、注意力の節約が求められている以上、まったく無色透明のまま物事を経験するためだからといってあらゆるステレオタイプを放棄すれば、人間生活を貧しくすることになるであろう。 そこで問題になるのは、、ステレオタイプの性格と、それを使いこなす我々の融通の気かない馬鹿正直さである。 結局、こうした問題は我々の人生哲学の中で、世界は我々の持っている規範に従って体系化されていると想定しているならば、たぶん我々は何が起こっているかを報告するときに、そのような規範によって動かされている世界の一つを語ることになるであろう。 しかし、我々の哲学が、それぞれの人間は世界の小さな一部分にすぎないこと、その知性はせいぜいさまざまな観念の中に世界の一面と要素の一部しか捉えられないのだと語るとしたらどうだろう。 そうすれば自分のステレオタイプを用いるとき、われわれはそれが単なるステレオタイプにすぎないことを知り、喜んで修正しようとするだろう。 また、いつ我々の思考が始まったのか、どこで始まったのか、どのような具合にしてわれわれの頭に生じ、それをなぜ我々は受け入れたのかを、さらにもっと明確に悟るようになる。
Walter Lippmann 『Public Opinion』
リップマン 『世論』





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posted by Vigorous at 22:07| 社会学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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