大抵の男女には、思考をコントロールする能力にひどく欠けている。これはどういうことかと言えば、ある心配事について何も打つべき手がない場合にも、そのことをあれこれ考えるのをやめることができない、ということだ。人々は、仕事上の心配をベッドに持ち込み、夜の時間中、明日の悩み事に対処するために新しい力を貯えているべきなのに、当面どうすることもできない問題について、とつおい思案する。しかも、明日のためにしっかりとした行動方針を打ち出すような仕方ではなくて、不眠症の混乱した思い煩いを特徴づけるあの半狂乱の仕方で、あれこれ考えているだけだ。この真夜中の狂気のなごりは、翌朝になってもまとわりついて、判断を曇らせ、不機嫌にさせ、一つ一つの障害にかんしゃくを起こさせる。(中略)きちんとした精神は、あることがらを四六時中、不十分に考えるのではなくて、考えるときに十分に考えるのである。困難な、或いはやっかいな結論を出さなければならないときには、全てのデータが集まり次第、その問題をよくよく考え抜いた上、決断を下すがよい。決断した以上は、何か新しい事実が出てきた場合を除いて、修正してはならない。優柔不断なくらい心身を疲れさせるものはないし、これほど不毛なものはない。
B.Russell 『幸福論』
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